エレクトロニクス電子計測技術より
マルチベンダサービスから生まれた基板搭載部品良否判定ツール
京西テクノス株式会社
計測・医療・通信分野でマルチベンダサービスを手掛ける京西テクノス。中でも人気を呼ぶのが、メーカーのサポート期限の切れた計測器の修理。しかし、顧客に喜ばれる半面、同社の技術者には苦労が伴う。部品の不良や故障箇所の特定には時間がかかり、相応のスキルも必要となるからだ。そこで、作業負担を軽減する目的で開発したのが非通電式部品良否判定装置『Attacker I/II』である。同社の技術者に限らず、誰もが簡便に使えるツールだ。さらに、第2弾として通電型の『Signer I』も開発中である。京西テクノス事業戦略部マーケティンググループグループ長の松本俊介氏と京西クリエイトプロダクト開発部グループ長の小山清彦氏の二人に話しを聞いた。
マルチベンダサービスが脚光
京西テクノスは計測・医療・通信分野での機器の修理・校正・フィールドサービスなど、トータルマルチベンダサービスを主な事業とする。設立は1991年2月、その後分社化し、現在ではシステム・プロダクト開発会社の京西クリエイト、販売会社のテクノトレンドとともに京西グループを構成する。同社の本業はサービス業だが、後述するように2006年2月から独自ブランドの計測器を投入、サービス力向上と合わせて製品販売にも乗り出している。 今日、多くの企業が様々なメーカーの電子機器を組み合わせ、カスタマイズして使用している。従来、そこで使用される機器類の修理やメンテナンスは、それぞれのメーカーもしくはメーカー系列の修理会社に委ねるのが一般的だった。しかし、多くの機器類のサポート業務を別々の企業に委ねるのは、効率が悪く業務を煩雑にする。そこで脚光を浴びているのが同社のビジネスだ。メーカーの枠を超えて修理・メンテナンスにワンストップで対応することで、顧客企業の業務効率改善に一役買っている。 「様々な機種を使っていることを見ても、お客様の立場からはメーカーに対するこだわりはないことが分かります。そんな理由から、メーカーにこだわらないサービスモデルが生まれました」と松本俊介氏はいう。中でも現在、力を注いでいるのが、計測器のマルチベンダサービス。メーカーのサポート期限の切れた計測器の修理である。スペクトラムアナライザ、ロジックアナライザ、オシロスコープ、マルチメータ、安定化電源など、およそ汎用計測器であれば、ほとんどの機種に対応する。顧客から要望があれば専用計測器の修理にも応じる。修理にかかる期間は15~20日。修理完遂率は90%以上だという。 マルチベンダサービスを行う企業は、国内では同社を除けばほとんど存在しない。それだけ難しい事業であるためだ。まず、メーカーの壁を乗り越えて情報を収集し、修理に必要な技術データを整える必要がある。また、様々な機種の修理が行える技術者を育成しなければならない。 これに関して松本氏は「当社でマルチベンダサービスが可能なのは、メーカーでのメンテナンス業務経験の者が存在すること。また、体系的な教育プログラムを実施することで、応用の利く社員が育っているためです」と語っている。そのうえ、全社を挙げて業務効率の改善にも積極的に取り組んでいる。 同社のビジネスは古い機械を対象とするので、回路図や技術情報などの入手が困難な場合がある。リソースに限りのある中で、いかにしたら効率的な修理が可能になるか。そんな中から自社製品は誕生した。
非通電で部品の良否を判断
従来、部品の出口から入口に向かって1つずつ順番に故障箇所を探っていく方法である。しかし、それには時間がかかり、相応のスキルも必要とした。この作業を軽減し、効率を高めるために「自分たちの手で治具を作ろう」ということになった。それが非通電式部品良否判定装置『AttackerI』である。開発に着手してから約2年後の2006年2月にリリースした初の自社製品である。 AttackerIは、電子機器の中に組み込まれた各種実装基板上の部品の良否を非通電状態で判断する装置。良品基板と不良品基板を用意。操作は判定したい部位にテストプローブを当てるだけでよい。装置が回路の中を流れる信号を解析し、液晶画面に良品の波形と不良品の波形を同時に表示する。良品は緑、計測対象品は赤で表示され、波形が重なっていればOK、ずれていればNG。その違いから誰でも簡単に不良箇所を特定できる仕組みだ。検査信号が部品に悪影響を与える心配もないという。 信号の入出力は2チャネル用意。単体で使う場合でも、良品波形データを登録(最大5件)しておけば、不良基板のみの計測でも良否を判定できる。また、パソコンに各部位ごとの良品波形データを登録しておくと、パソコンが自動的に相違点を判断し、パソコン画面上に結果表示をする。本来は良否の波形を視覚化することで誰もが見やすくなることを狙ったものだが、パソコンと連動させれば、もはや波形を見なくても、良否結果が得られるわけだ。さらにシステム的な利用方法もある。例えば、生産・検査技術部門などで各部位ごとの良品波形データをマスタ登録しておく。そのマスタデータを遠隔地の現場担当者がシステムを介して取り込み、計測データとの違いを検証することなどが可能だ。 開発者の小山清彦氏は、中でも非通電のメリットを強調する。ひとくちに電子機器と言っても、大きさは様々であり、中には簡単には持ち運べない機械もある。したがって、通電が必要な場合は、その場所に行かない限り修理することはできないが、非通電のため、機械に入っている多くのユニットの中から、計測対象とするユニットだけを取り外してくればよい。あとは事務机の上などでも修理が可能なわけである。 AttackerIの液晶表示部には、コンデンサなら丸い波形、抵抗は直線、ダイオードなら“くの字”形というように、それぞれ部品特有の波形が現れる。前述したように、良否の判断は誰が見ても一目瞭然だ。ところが、それとは別の使い道もある。 「知識が豊富な技術者の場合、例えば表示部に現れた抵抗の波形を見れば、大雑把な抵抗値を掴むことも可能なのです。また、『この回路ならこういう波形が出るはずだ』という追求の仕方もできます。実は、AttackerIは誰でも使える一方、使い方次第でとても奥の深い利用方法も可能なのです」と小山氏。また、オシロスコープとの接続により、計測波形をより詳細に表示することも可能だという。
ポータブル型も投入
AttackerIに続き、2007年10月には『AttackerII』をリリースした。基本的な機能はAttackerIとほとんど変わりはないが、AttackerIではAC100V電源が必要であるのに対し、AttackerIIはリチウムイオン2次電池を内蔵し、本体の奥行きを50mm短くするなど、携帯性をよくしたことが特徴だ。「当社ではフィールドサービスも行っていますが、中にはAC電源の確保が難しい場所もあります。そういう場所でも計測を可能にしたのがAttackerIIです」(小山氏)。 Attackerシリーズの開発過程では苦労もした。「京西グループはメーカーでなく、本業がサービス業ですので、技術力はあっても、商品開発というものには慣れていないわけですよ。しかも、国内には全くない製品でしたので、スペックを決める商品企画の段階が最も苦労しましたね。『自分たちが使いやすいものを』と言っても、技術屋集団なので、社員によって温度差があるわけです。その調整が大変でした」(小山氏)。 リリースから約2年経過した今、需要の傾向が見えてきた。最も重宝されているのが、自社でラインメンテナンスを行い始めた企業だ。ライン管理はしても、検査機器のメンテナンスは外部に依存するという企業は多い。しかしその費用が高くつく。とくに輸入機器の場合などは修理代が高いうえ、戻ってくるまでのリードタイムが長い。そこでAttackerを導入したところ、「とても助かっている」という評判が数多く寄せられているという。
通電式検査装置の試作品を発表
AttackerI・IIに続く自社製品の第3弾にも着手している。Attackerとは逆に基板搭載部品を“通電状態”で検査する『SignerI』という装置だ。2007年11月に開催された計測展2007で初めて公開、多くの見学者の関心を集めた製品でもある。 Attackerは、部品の良否を瞬時に判定する優れた製品だが、基板上にはロジックICのように通電しないと動作確認できない部品もある。同製品はこれらに対応するために開発に着手したものである。 良品、不良品の判定はパソコン上で行う。良品ボード(または保存している波形データ)と不良品ボードの波形を比較し、波形に違いがない場合は「GOOD」、違いがある場合は「NG」が表示される。デジタル波形だけでなく、アナログ波形にも対応する。SignerIもAttacker同様、特別な技術を持っていない人でも扱える。 もう1つの特徴は、オシロスコープ、ロジックアナライザ機能を装備し、通常の波形観測にも使えることだ。アナログ系の測定に使用する高インピーダンス入力(1MΩ)8チャネル、デジタル系用の低インピーダンス入力(100kΩ)16チャネルの2系統のチャネルを持ち、リアルタイムに計測できる。不良解析用のアナライズモードとロジアナ/オシロモードは、モード切り替えボタンによって簡単に切り替わる。 「SignerIは、非通電だけでは判定できない部品に対して通電型で対応するという単純明快な発想です。われわれの立場からは、AttackerとSignerIを使って、一つの基板修理を最適かつ最短に行うことが狙いです」と小山氏は語る。SignerIは、現在フィールドテストを実施中であり、正式リリースは2008年年央になる見通しである。 二つの製品により、通常の実装基板上の部品検査なら、ほぼすべてをカバーできる。ただし、高周波対応など残された課題もあり、「必ずしもこれだけで完璧というわけではありません。」とも。「自分たちに必要な治具を作る」という方針を堅持しつつ、必要とあれば今後もバリエーションを増やしていく方針だ。
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